「家に帰りたい」というT様の希望を叶えたい。
Case お看取りケア
訪問介護には出会いと別れが付き物。中には「お看取りケア」として、最期の数週間にお付き合いすることもあります。今回は、末期ガンのT様をお看取りしたケアをご紹介します。
「家に帰りたい」というT様の希望を叶えたい。そんなご依頼を受けてから4日後、グレースケアの訪問が始まりました。1日3回のケアを6名のヘルパーで協力しながら、1週間ほどのかかわりとなりました。
介護経験のないご家族でしたが、できる限りのことを懸命にされていました。ある日、訪問すると娘様からすぐに相談があり、震える手で書き留められていたメモを読んでくださいました。きっと不安でしかたなかったのでしょう。「大丈夫ですよ。私が来ましたから」とヘルパーが娘様の手を握ると少し落ち着いたご様子に。ご家族にも安心していただけるよう、ヘルパーもサポートしつつ一緒にお身体を拭いたり、お着替えをしたりしながら、お別れに向けての時間を過ごしました。
時には思い出話に花が咲くことも。T様は園芸や音楽がお好きなのだそうで、演歌を聴いていたという話を受けて美空ひばりの曲を流していると、息子様が「そういえば加山雄三を聴いていたかも」と。娘様も「母は加山雄三のショーを1人で見に行ったりしてました。ねぇ〜お母さん」と声をかけて、懐かしの音楽に包まれながらのケアになりました。
呼吸が止まる直前にはご家族が集まり、T様へ「ありがとう」「心配かけてごめんね」と最期の言葉を伝えられました。あたたかく見守られる中での旅立ち。20年前に自ら準備したという遺影が飾られ、米寿や卒寿のお写真を見ながらT様との思い出を語り合ったそうです。
急なお看取りへの不安を和らげ、ご本人・ご家族ともに「安心して送り出せる場を作る」こともヘルパーの大事な役目だと感じられました。T様の思い出に触れながら、人生の幕が下りていく瞬間に立ち会える貴重な経験となりました。